ラブレター【完】

「あ、そういや、今日はお疲れさん」

昇降口で靴を履き替えながら、ともちゃんが言った。

「ん?なにが?」

「コンクール。ピアノの伴奏だったじゃん?」

「あはは。ともちゃんも歌ったじゃん」

「いやー、ピアノの方が大変だろ。だって絶対ミスれないじゃん?すげー練習したんだろうなって。だから、お疲れさん」

先に靴を履き終えたともちゃんが、しゃがんでスニーカーの紐を結び直していたわたしの頭を、手でポンポンした。

そんなの別に、今までだって何度もされていた筈なのに、なぜかドキッとしてしまった。

だって、ともちゃんがあまりにも優しい顔で笑うから。

「そ、そんなことないよ?練習なんてほとんどしてないし。でも……その、ありがと…」

ともちゃんの顔を見ているのがなんだか照れ臭くて、わたしは少し目をそらしながら言った。

語尾がゴニョゴニョしてしまった。


校舎裏の自転車置き場に着くと、ともちゃんはそこから自転車を引っ張り出した。

似たような自転車がずらりと並んでいるのに、よく自分のが一発でわかるもんだな、と感心する。

「でもまさか優勝するとは思わなかったよな」

「うん。びっくりしたね」

「てわけで、俺が今日、理奈を誘ったのはさ」

自転車を押して歩き出しながら、ともちゃんが言った。

「優勝したご褒美に、アイスでもおごってやろうと思って」

「ほんとに?やったー!……でもあれ?ともちゃんも一緒に優勝したよね?」

「まあな」

「じゃあ、ともちゃんの分はわたしがおごってあげる!」

わたしがそう言ったら、ともちゃんは「それ、お互い自分で買うのと変わんなくね?」と言って笑った。
< 42 / 90 >

この作品をシェア

pagetop