ラブレター【完】
「あ、そういや、今日はお疲れさん」
昇降口で靴を履き替えながら、ともちゃんが言った。
「ん?なにが?」
「コンクール。ピアノの伴奏だったじゃん?」
「あはは。ともちゃんも歌ったじゃん」
「いやー、ピアノの方が大変だろ。だって絶対ミスれないじゃん?すげー練習したんだろうなって。だから、お疲れさん」
先に靴を履き終えたともちゃんが、しゃがんでスニーカーの紐を結び直していたわたしの頭を、手でポンポンした。
そんなの別に、今までだって何度もされていた筈なのに、なぜかドキッとしてしまった。
だって、ともちゃんがあまりにも優しい顔で笑うから。
「そ、そんなことないよ?練習なんてほとんどしてないし。でも……その、ありがと…」
ともちゃんの顔を見ているのがなんだか照れ臭くて、わたしは少し目をそらしながら言った。
語尾がゴニョゴニョしてしまった。
校舎裏の自転車置き場に着くと、ともちゃんはそこから自転車を引っ張り出した。
似たような自転車がずらりと並んでいるのに、よく自分のが一発でわかるもんだな、と感心する。
「でもまさか優勝するとは思わなかったよな」
「うん。びっくりしたね」
「てわけで、俺が今日、理奈を誘ったのはさ」
自転車を押して歩き出しながら、ともちゃんが言った。
「優勝したご褒美に、アイスでもおごってやろうと思って」
「ほんとに?やったー!……でもあれ?ともちゃんも一緒に優勝したよね?」
「まあな」
「じゃあ、ともちゃんの分はわたしがおごってあげる!」
わたしがそう言ったら、ともちゃんは「それ、お互い自分で買うのと変わんなくね?」と言って笑った。