ラブレター【完】
ピアノの椅子に腰かけたら、ひんやりと冷たかった。
そして椅子よりももっと冷たい鍵盤に、そっと両手を添える。
弾くのはもちろん、ショパンの「雨だれのプレリュード」。
窓の外は雨で、『雨だれ』さんからラブレターもらって。
今この曲よりぴったりな曲なんてない。
美しい右手のメロディに引っ張られて感情的にならないように、意識的に淡々と弾き始める。
鳴り続けるラ♭の音がまるでしとしと降る雨の音のようだから、変にリズムを崩したくないのだ。
パパみたいに弾けたらなあ、と思う。
パパのピアノは世界一素敵。
お休みの日は、弟のサッカーに取られちゃう前にパパを捕まえて、必ずピアノを弾いてもらう。
パパのピアノはびっくりするくらいロマンチックで、きっとこのピアノでママはオチたんだなあってニヤニヤして聴いてしまう。