ラブレター【完】
『雨だれ』さんが好き。
『雨だれ』さんは星川先輩か透くん。
けれど、わたしは先輩でも透くんでもなく、ともちゃんのことが好きだ。
なのに『雨だれ』さんはともちゃんじゃない。
わけがわからない。
「あー、もうやだ!」
自分の中の矛盾した気持ちを扱いきれなくなって、わたしはついに匙を投げた。
あーあ。
今日何度目かわからないため息がまた漏れた。
ダメだ、こんなんじゃ本当に幸せが逃げてしまう。
とりあえず、気分転換にピアノでも弾こう。
ピアノの椅子に腰かけたら、やっぱりお尻がひんやりと冷たかった。
今わたしは、何を弾きたい?
パッと頭に浮かんだ曲を弾こうと、目を閉じてみた。
でも、思い出したのは曲じゃなくて、ともちゃんの笑った顔だった。
どうしてともちゃんには、好きな人がいるんだろう。
どうしてともちゃんは、わたしのことが好きな『雨だれ』さんじゃないんだろう。
好きなのに、何もうまくいかない。
切なくて、胸がきゅうきゅうと締め付けられる。
なんだか泣きたくなった。
考えるのやめようと思ったのに、どんだけ好きなんだろう。
何の曲も浮かばないから、ポロン、と適当に鍵盤を鳴らしてみた。
偶然鳴らしたそれはファの音で、今その音から思いつく曲は1曲しかなかった。
ショパンの雨だれのプレリュード。
『雨だれ』さんのこともともちゃんのことも考えたくないのに、どうしてもこの曲しか浮かばなかった。