ラブレター【完】

外は相変わらずの雨。

雨の日って、なんだか全ての音にもやがかかって、少し遠くに聴こえる感じがする。

雨の音が他の雑音を消してしまうのかもしれない。

いつもよりも余計に静かに感じる第二音楽室に、ピアノの音が鳴り響く。

主旋律はとてもメロディアスなのに、ラ♭の音がやけに無機質に聴こえるのは、わたしの弾き方に問題があるんだろうか。

でも淡々と連続的に刻まれるラ♭の音を聴いていたら、ざわざわしていた心が落ち着いていく気がした。

……そうだ、あれこれ考えても仕方ない。

とりあえず、3日以内に『雨だれ』さんの正体を突き止めなくちゃ。

まずはそこからだ。

その先のことは、『雨だれ』さんが誰なのか、はっきりわかってから考えよう。

答えが出ないとわからないこともきっとある。

雨だれのプレリュードを弾き終えたわたしは、黒板の前に立ち、白いチョークを握りしめた。


「木曜日の放課後、ここに

あなたの名前を書けばいい?」


まだ誰の名前なのかもわからないくせに、わたしは力強くそう書いた。


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