ラブレター【完】

今日のうちの夕飯は、お好み焼きだった。

ママが作った種を、パパがホットプレートに敷いていく。

敷いた種から、イカゲゾがパチッと音を立てて跳ねた。

うちのお好み焼きにはイカゲゾが必ず入っている。

パパの大好物だからだ。

「優人(ゆうと)、ひっくり返してみる?」

「うん!やるやる!」

パパが弟の優人にフライ返しを渡すと、優人は嬉しそうにお好み焼きに差し込んだ。

けれど、しばらくそのまま腕をぷるぷるさせて、半泣きで「やっぱムリ~」と訴えた。

「あはは。奈々(なな)ちゃーん、フライ返しもう1個ちょうだーい」

「はーい」

パパはママのことを「奈々ちゃん」と呼ぶ。

それは出会った中学時代から、ずっと変わらないらしい。

前に「どうして奈々ちゃんなの?」って訊いたら、「奈々ちゃんって呼べるのはパパの特権だから」と言っていた。

全然意味がわからなかったけれど、パパが少しだけ淋しそうに笑うから、何か深い事情があるのかもしれない。

それにしても、初恋の相手と結婚だなんて、自分の両親ながら、羨ましくて仕方ない。

わたしの初恋は……目下迷走中。

相手は2人いるし、片方はもう誰だかわからないし、もう片方は失恋確定しているし。

暗黒迷宮入りして、出口すら見えない。
< 68 / 90 >

この作品をシェア

pagetop