ラブレター【完】
今日のうちの夕飯は、お好み焼きだった。
ママが作った種を、パパがホットプレートに敷いていく。
敷いた種から、イカゲゾがパチッと音を立てて跳ねた。
うちのお好み焼きにはイカゲゾが必ず入っている。
パパの大好物だからだ。
「優人(ゆうと)、ひっくり返してみる?」
「うん!やるやる!」
パパが弟の優人にフライ返しを渡すと、優人は嬉しそうにお好み焼きに差し込んだ。
けれど、しばらくそのまま腕をぷるぷるさせて、半泣きで「やっぱムリ~」と訴えた。
「あはは。奈々(なな)ちゃーん、フライ返しもう1個ちょうだーい」
「はーい」
パパはママのことを「奈々ちゃん」と呼ぶ。
それは出会った中学時代から、ずっと変わらないらしい。
前に「どうして奈々ちゃんなの?」って訊いたら、「奈々ちゃんって呼べるのはパパの特権だから」と言っていた。
全然意味がわからなかったけれど、パパが少しだけ淋しそうに笑うから、何か深い事情があるのかもしれない。
それにしても、初恋の相手と結婚だなんて、自分の両親ながら、羨ましくて仕方ない。
わたしの初恋は……目下迷走中。
相手は2人いるし、片方はもう誰だかわからないし、もう片方は失恋確定しているし。
暗黒迷宮入りして、出口すら見えない。