ラブレター【完】

「ねえ、ママ。ちょっと聞いていい?」

食べ終わったお皿を流しに運びがてら、わたしは洗い物をしているママに声をかけた。

「なあに?」

「あのね、『あさきゆめみし』ってなに?」

「あさきゆめみし?ああ、いろは歌に出てくる言葉ね」

お皿をキュッとスポンジで擦りながら、ママは言った。

「いろは歌?なにそれ」

「いろはにほへと、って知ってるでしょ?色は匂へど散りぬるを、って」

「ああ、こないだ授業でやってた」

「色は匂へど散りぬるを、わが、わがそ?……なんだっけ」

ママは首を傾げてから、

「忘れちゃった!あとはパパに聞いて」

可愛らしく舌をペロッと出して笑った。

仕方ないので、わたしはリビングで優人のゲームに付き合っているパパの元へ。

「パパ、いろは歌ってわかる?」

「いろは歌?……色は匂えへど散りぬるを、わが世誰そ常ならむ。有為の奥山今日越えて、浅き夢見じ酔ひもせず。これのこと?」

「うん!どういう意味なの?」

「花はいつか散るし、世の中も変わる。はかない人生だから、酔ってつまらない夢を見ないようにしよう、って意味かな」

何となくわかるような気がしたけれど、急にお酒に酔う話が出ていたのが腑に落ちなかった。

でも今は、それは後回し。

「ねえ、『あさきゆめみし』って所は?どういう意味?」

「浅き夢見じ、だね。浅い…くだらない夢など見ずに、って意味かな」

「くだらない夢など見ずに……ありがとう、パパ」

……とりあえず「あさきゆめみし」の意味はこれでわかった。

でも、『雨だれ』さんの正体に関する最終ヒントが、「くだらない夢など見ずに」?

ダメだ、さっぱりわからない。

やっぱり、恋も謎も、暗黒迷宮入りだ。
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