ラブレター【完】
わたしという人間の脳みそは、どうしてこうも単純なんだろうか。
そうあって欲しい願望が強過ぎて、何度考えても、ともちゃんの顔しか浮かばなかった。
でも、ともちゃんを『雨だれ』さんにするには、どうしてもクリアできない問題がいくつかあるのだ。
まず、わたしが第二音楽室でピアノを弾いていることを、ともちゃんは知らない件。
でもこれはわたしが教えていないだけで、100パーセント知らないとは言い切れない。
次に、名前。
ヒントは名前だと『雨だれ』さんは言った。
まさか「天寺」と「雨だれ」の響きが似ているからってことは、さすがにないと思う。
そもそも名前がヒントって、どういうことなんだろう。
雨がつく名前ではないのに、名前がヒント。
全然わからない。
そして、ともちゃんが『雨だれ』さんじゃない、最大の理由。
ともちゃんには、好きな人がいる。
好きな人がいるのにわたしのことも好きだなんて、そんなおかしな話はわたしだけで充分だ。
……結局、ともちゃんが『雨だれ』さんなんてことは、あり得ない話だ。
よく考えたら、ともちゃんの好物も好きな色も好きな季節も、わたしは何も知らない。
勝手なイメージで判断しただけだ。
現に、ともちゃんが本を読むなんてこと、わたしは最近まで全く知らなかった。
ともちゃんのことも『雨だれ』さんのことも。
好きなのに、全然知らない。