ラブレター【完】
夕暮れの第二音楽室。
目の前の黒板に書かれたラブレター。
絶対に忘れないように、何度も何度も読んだ。
そして、わたしは意を決して、それを勢いよく消した。
白いチョークを手にする。
今から書くのは、クイズの答えなんかじゃない。
これは、わたしからのラブレターだ。
『雨だれ』さんへの想いを伝えるのは、きっとこれが最初で最後。
だってこれからは、いくらでも直接伝えられる。
カツカツと音を立てながら、黒板に文字を書いていく。
「雨だれさん すき
そこまで書いた所で、わたしはくるっと後ろを振り返った。
カタッと物音がしたからだ。
ゆっくりと辺りを見渡す。
音楽室と同じように、2人掛けの机と椅子がたくさん並んだ、そのいちばん後ろの席。
「…………あ」
さっきまで椅子に寝そべっていたんだろう、体を半分起こした状態の彼と、ばっちり目が合った。
「ふふ…………雨だれさん、見っけ」
指を指してわたしが言うと、彼は罰が悪そうに頬を掻いてヘラっと笑った。
「あーあ、見つかっちった」
そう言いながら、椅子から立ち上がると、こちらにゆっくりと歩いてきた。
それだけで、胸がバカみたいに高鳴る。
ああ、やっぱり、わたしはあなたのことがすごく好きみたい。
やがて彼が、わたしの目の前に立った。
「で?」
彼は生意気そうな顔でわたしを見下ろしながら言った。
「で?ってなに?」
「なにって、お前の返事だよ」
少し怒ったような口調は、きっと照れているからだ。
「途中まで、あそこに書いてあるけど」
わたしはそう答えながら、黒板を指差す。
「……なんで『雨だれ』宛なんだよ」
「だって、『あまだれより』って書いてあったし?」
わたしがちょっと笑いながら答えたら、彼は、はあーっと呆れたようにため息をついた。