ラブレター【完】
「つーか、気づくのおせーよ、バーカ」
すっかり日の暮れた帰り道、自転車を押して歩くともちゃんが、急に思い出したように言った。
「……あんなヒントでわかるわけないじゃん」
わたしが言うと、彼は「あんなってなんだよ」と眉を寄せた。
「だって、名前がヒントって。完全にミスリードされたもん」
「天寺とあまだれって、響き似てんじゃん。アナグラムに気づかなくても、なんとなく予想つくべ?」
「ともちゃんの名字なんて普段呼ばないから、ピンと来ないし」
わたしは口を尖らせた。
まさか名字をローマ字で書いて入れ替えた、アナグラムだなんて。
ミステリーマニアでもないのに、わかるわけない。
「それに、よりによって音楽室で『雨だれ』なんて。普通、ショパンの雨だれだと思うでしょ?」
そうだ、だからてっきり、ピアノ曲に詳しい人だと思い込んでしまったのだ。
「ジョバンニ甘ったれ?」
「……ジョバンニって誰よ」
「うーん、どっかの……次男?次男ぽくね?」
「…………ハァ」
随分大人っぽくなったと思うけれど、ふざけたことばかり言うのは昔から変わらないみたい。
「あ、そういえば、まだわかんないことが3つあるんだけど」
「3つもあんの?なに?」
「1つはね、なんでともちゃんは、わたしがあそこでピアノ弾いてるの知ってたのかなって」
「あー。で、2つめは?」
ともちゃんは答えをくれずに、先を促した。
「あのね、ともちゃんは、いつあのメッセージを書いてたのかなって」