ラブレター【完】
「ね、ともちゃん!25メートル勝負しない?」
自由時間になるやいなや、俺の元に近づいて来た理奈は、得意気な顔でそんなことを言い出した。
そういえば昔、スイミングの食堂の肉まんやら賭けて、こんな勝負を2人でよくしていたな。
「いいねー。種目は?」
「やっぱりバックかなー」
「罰ゲーム何にする?」という俺の問いに、理奈は少しだけ考えて「1個だけ、何でも言うこと聞くのは?」と目をキラキラさせて提案した。
たぶん理奈は、勝つ気満々なんだろう。
でも俺達中学生だし、俺は男子だし水泳部だからね、もう泳いでない女子の理奈には、さすがに負けない。
25メートル背泳ぎ勝負は、当然俺が勝った。
思ったよりも差がつかなくて、かなり焦ったけど。
「……あーあ、負けちゃったあ。ともちゃんほんと速くなったね!」
理奈は負けたのに、とても嬉しそうに笑った。
たぶん罰ゲームのことは、すっかり忘れてしまっているんだろう。
理奈は昔から、すごく忘れっぽい所がある。
「だから言ったじゃん。じゃ、約束通り言うこと聞いてもらうから」
俺が言うと、理奈は案の定忘れていたらしく、途端に心底嫌そうな顔をした。