最上階ロマンス
「悠くん…っ!」

その声に、現実へと戻される…

「あ、なに?」

その声は、聞き間違えるはずはない…、彼女の声だ…

「漆原さんと、ハナシ終わった?」

そぅ、変わらない笑顔を見せる…

「瑞希…。あ、うん…」

思わず…、曖昧な返事をしてしまった…

「なに、話してたの?」

そぅ、悠の顔を覗き込むように聞いてくる…

その瑞希の表情…。。その瞳が不安気な気持ちを押し隠しているのが…、悠にも分かった…

彼女を、いつの間にか…不安な気持ちにさせている…

琢磨の言う通り…、【結婚】や【これから先も…】を口にしない…自分と居るのは、それだけで不安なモノだろぅ…。。それは、分かっている…

でも…、自分がこの先も、共に過ごしていきたい…のも、同じ時間を共有したいのも…彼女だけなんだ…と。。

「…別に…。大した話じゃないよ…
アイツ、花婿、からかいに行く…とか。。ホント、変わらない…」

悠は、瑞希を不安にさせないように…笑いかける…

「…そっ? あの人、相変わらずよね?」

そぅ、悠の言葉に安心したかのようなフリをして見せる…

自分が不安気でいると、悠にも伝わる…と、分かっているからだ…

そんな気遣いを…、いつからさせるようになったのか…?。。悠は覚えていない…

悠は、そ…っと、瑞希の手を握りしめ…、その指先を絡ませる…

悠は、決して…人前ではこういうことをしない…


出会った頃から…、人で混みあった電車の中や、街中…はぐれないように…と言うのはあったが。。

今日のような…、公の場所では…こういう行動を取ることはなかった…


それだけで、瑞希の鼓動は、ドキン…とした…

「なに…? どうしたの?」

悠は、大きく…息を吐き、胸の鼓動を悟られないよう…瑞希に、微笑み描ける…

「今度…、瑞希のご両親と話せる時間、作ってくれない…?」

そぅ、瑞希に笑いかける…。。

「…え?」

悠の…、いきなり…のその言葉に、両目を大きく見開き…驚いた様子の瑞希…

「その前に…、話したいこと、あるんだ…」

「あ。。うん…」

その次の瞬間には、その手を離されてはいたが…、その指先に悠の体温の温もりが残った…

悠は、先程…琢磨が【花婿をからかいに行く】と、行っていた…後を追いかけるように、同じように歩いて行った…


瑞希は、少しずつ…胸の鼓動が早まっていくのを感じた…

次第に、頬が紅潮していくのを感じた…

「……っ」
《なに? あれ?

いつも…、いきなりドキドキさせるから…

私の思考が追いつかない…》


瑞希は、少しずつ…紅潮していく頬を、周りに悟られないようにした…


悠と付き合い始めて…5年。。

一緒に、暮らし始めて…も、同じだけの年数はある…が、互いに恋人同士…というよりも、最近では同居人や友人…に近い…

付き合う前から、互いに好みが似すぎていて…意見の衝突は、数える程しかない…


…が、悠は時折、人を驚かすようなことをする…。。大学を1度やめた時も…、就職先を決めた時も…、2人には充分すぎる広さの部屋に引っ越す時も…、全て…【決めたから】で、話が進んでいく…

今回も、その【決めたから】…だろう…

「…今度はなんだろ…?」

脳裏に…、【結婚】…の二文字が浮かんだ…が、すぐに打ち消した…


「まさか…ね…」
《でも…

このまま…、続いていけたら…いいな…》

瑞希は、微かに温もりが残る…悠に握りしめられた手を、もう片方の手で握りしめた…


初めて、会った…あの日から…、変わらない想いがここにあるから。。――



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