死に損ないはヒーローのとなり
 「え、あ……なんで」
 
 ああ、びっくりさせちゃったか、と先生は口を押さえてくすくす笑った。
 
 「ぼく、心を読む能力なんだよ。君、心の中では饒舌なものだから……ついつい、ね」
 
 う、女の人みたいな顔の造りとか思ってたのもみんな筒抜けなのか。キツすぎる。朝とは別の意味で死にたくなってきた私は顔を覆った。
 
 「先生……そういや、葵、遅くないっすか?」
 
 スマホをちらちら見ながら、日向くんが心配そうに声を上げる。たしかに、と先生は顎に手を当てる。
 
 「葵君は日向君みたいに無茶はしない子だから、便りがないのはいい便り……だと信じたいけれど、日向君、念のため様子を伺ってきてくれるかな?」
 「了解っす」
 
 日向くんは荷物を手早くまとめると、勢いよく客間を飛び出して行った。どうやら、日向くん以外にも別のヒーローが活動しているらしい。というか、ヒーロー同士の連絡手段、LIMEなのか。もっとこう、特殊な端末とかではないのか。
 
 「佐倉さんにも、グループLIMEにはあとで入ってほしいかな」
 
 心の中の野暮な疑問すら丁寧に読まれていて恥ずかしい。プライバシーとは。先生は戸惑う私に微笑みかけると、口を開いた。
 
 「さて……佐倉さん、『おやすみ』」
 
 私の意識は先生の声に導かれるままに、すっと消えていった。がくん、と垂れた私のうなじを優しく撫でながら、先生は囁いた。
 
 「君がただのイプシロンではないのは分かっているからね……たくさん聞かせてもらうよ?」
 
 ぼくもただのヒーローではないからね、と聞こえたような気がしたが、先生の優しい声を聞くうちに心地よくなってすぐにどうでもよくなってしまった。
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