恋愛境界線
そんな私の言葉は途中で遮られる。

伸ばした手を引っ張られて、私は"本郷先生"に抱き締められる。




「先…生?」




「…離れたくない」


耳もとでそんな言葉を囁かれて、私は心臓の鼓動が速くなる。


私の妄想?

一瞬そう思ったけれど、
"本郷先生"の体温と私を苦しいくらい抱き締める強い力のおかげでこれは現実であるとわかる。





「君と離れたくない」


先生はそう告げると、息をととのえてからゆっくりと話始める。




「今日は…いままで顔を出せない訳じゃなかった。けど、夜まで病室に来なかったのは、考え事をしてたからだ」


「考え事?」


「君に……その…俺の気持ちを伝えるか否かを」


「え…」


それって…


「たった出会って6日。
しかも君は高校生で、俺は三十路前のおっさんだ。
引かれても仕方がないと思っている。

けれど…ずっと君のことが頭から離れなかった。

明日退院をして、
君との時間がなくなってしまうと考えたら、
明日を他の患者が退院していくときと同じように過ごして、終わってしまって良いのだろうかと思った」


"本郷先生"は私を抱き締める手を緩めてゆっくりと離れ、私たちはみつめあう。

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