恋愛境界線
「呼んでくれないの?」

私は泳ぐ先生の目をじっと見つめる。

「そうじゃない。この呼び方でいいか検討している最中だ」

「良いですよ。いま頭に浮かんでいる呼び方で」

「……」

先生は息を軽く吸ってから、私の目を見つめる。

「雪…花」



ドキン。





ふと"本郷先生"の顔が頭をよぎる。

駄目だ。もう忘れるんだ。
"先生"と過ごした、あの1ヶ月のことは。


いま私の目の前にいるのは、"本郷雄飛"じゃなくて"本郷隼人"なんだから。





「…………さん」

「"さん"はつけなくていいですよ?私、年下ですし」

私は" 本郷先生"の面影を振り払いながら、そう言って笑う。


「だが……"あいつ"は、呼び捨てにしていたんだろう?」






ああ。
なんだ。バレバレだったのね。





「…知ってたんですね」


「ああ」


知ってて、隼人さんは告白してくれたのだろうか。
…でもそれは、私に聞く権利はない。




「全部、隼人さんが塗り替えてくれるんでしょう?」


"雪花"って呼んでも
"先生"の顔が浮かばなくなるくらい、
私を隼人さんに夢中にさせてくれるんでしょう?
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