恋愛境界線
先生は…
扉をノックして職員室に入ると、見渡しても先生の姿は見当たらない。
ホームルームを終えてそんなに時間が経っていないときは、まだ職員室のほうにいるはず。
その予想は外れたようだ。
「どうした、赤坂」
先生の隣の席の山西先生が、ブルーのマグカップで珈琲を嗜みながら、私に訊ねる。
「本郷先生ってどちらにいますか」
「ああ…社会科準備室じゃないか?最近また職員室で見かける頻度が減ったから」
「そう…なんですか」
山西先生の言葉が針のようにちくっと胸に刺さる。
「本当、婚約者が亡くなってから、気持ちの浮き沈みが激しいなあ…
それまでは本当に明るい人だったのに。
…あ。こんなこと俺が言ってたって言わないでくれよ」
「あはは…はい」
山西先生の言葉に、心の奥に押し込んでいた胸のもやもやが、再び出現して大きくなる。
先生…
そうなってしまったのは、私のせい?