恋愛境界線
3年生になって、
本郷先生は担任ではなくなった。
教科担当でもない。

こんな風に廊下でたまにばったり会っては、
挨拶を交わす。
今はただそれだけだ。



「"小川"ってさ、絶対本郷先生のこと狙ってるよね」

「小川って?」

「小川紗弓(おがわさゆみ)先生だよ!
ほら、今年の4月から赴任してきた新任教師!
男子が可愛いって騒いでた」

「ああ…」

廊下の窓から職員室の中を覗くと、
デスクに座った本郷先生に小川先生が
笑顔で話しかけにいく光景が目にはいる。

肩ほどの長さでゆるいパーマをかけた髪。
ピンクベースのメイクに、淡いピンクのカーディガンに膝丈のスカート。

笑顔が素敵で、柔らかい雰囲気がある。
確かに、誰が見ても可愛いと思うだろう。


「色目つかっちゃってさ。ちょっと胸が大きいだけじゃん。本郷先生はあんなのになびかないもんね!ね、雪花ちゃん」

しーちゃんはそう言って唇を尖らせる。




一緒に並んでも違和感がない。
私なんかよりずっと…


「…お似合いだと思うけどね。本郷先生と小川先生」


そう言ってしーちゃんに笑いかける。
心の中が少し波立っているのを、私は見ないふりをして職員室の前をあとにした。
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