恋愛境界線
学校も終わり、いつものように隼人さんの部屋を訪れる。
リビングに入ると、いつもの位置に鞄を置く。
今日は夜勤だし、帰ってこないんだっけ。
隼人さんとのメッセージのやりとりを見返そうとしたとき、携帯電話が震える。
隼人さんから電話だ。
「もしもし」
『雪花か。いまどこにいる?』
「ちょうど隼人さんの部屋についたところだけど、どうしたの?」
『今日の会議使う資料を家に忘れてしまってな。取りに帰ろうと思ったんだが急患が入ってしまって取りにいけそうにもないんだ。
悪いんだが、病院まで持ってきてくれないか?
俺のデスクの上に置きっぱなしにしてるから』
「ちょっと確認するね」
『茶色の封筒に入ってる。すぐにわかると思うんだが』
隼人さんが忘れ物をするなんて、珍しいなあ。
最近忙しそうだったし、疲れてるのかな。
デスクを確認すると、封筒はすぐに見つかり私は手に取って玄関に向かって歩き始める。
「あったよ。じゃあすぐ向かうね」
『ありがとう。
俺は今から処置室に入るから、もしかしたら直接受け取れないかもしれない。
その場合はナースステーションの看護師に渡してくれるか?
伝えておくから』
「わかった。お仕事頑張ってね」
『ああ。また連絡する』
その言葉のあと、通話はすぐに切れてしまった。
後ろで切羽詰まった声が飛び交っていたから、緊迫した状態なんだろう。
会えないのは残念だけど、隼人さんの役に立つならいいか。
私は封筒を抱え、置いたばかりのバッグを手に取り、まだ生温かいローファーを履いて家をあとにした。