恋愛境界線

「そう言えば、今田さんにした”お願い”ってなんだったの?」

「ああ…それは」

ちょっと躊躇いつつ、隼人さんは口を開く。

「今日で付き合って1年だが、仕事があるから会えないって言ってただろ?」

「そうね。隼人さんが資料を忘れなかったら会えなかった……」




……………うん?

まさかとは思うけれど。


「わざと資料忘れたの?」

私は首を上げて隼人さんに問いかける。
そんな隼人さんは、明後日のほうへ目を向けている。

「やっぱり!
隼人さんが忘れ物なんかするわけないと思った!そういうことだったのね!」

「どうしても、今日は5分でもいいから会いたかったんだ。
だが俺が帰る時間はない。
そうなると雪花に来てもらうしかない。
だから何か口実をつくろうと、資料を忘れた。

だが急患が入ってしまって、それで今田さんに”雪花を引き止めておいてくれないか”と頼んだ」

他は完璧なのに、
そういうところは不器用というか、甘え下手というか。
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