恋愛境界線
「…でね、こっちにも天文部があったから入部したの」
引っ越しの片付けをしながら、私は奏に電話で今日の出来事を話していた。
『そいつイケメンなの?』
「そいつって?」
『担任』
先生の話になり、私はドキッとする。
「…別に、普通だよ。なんで?」
『さっきからそいつの名前ちょくちょく出てくるから』
「そうだっけ?」
そんなつもりなかったんだけど、もしかして無意識に何度も名前出してた?
『だから、好きにでもなったのかなって』
「まさか!そんなわけないじゃん。奏がいるのに」
『…ふーん』
そこから奏は何も言わなくなって、沈黙が流れる。
奏は昔から不機嫌になると、口を聞いてくれなくなる。
こんなときはこう言わないと、彼の機嫌は直らない。
「私が好きなのは奏だけよ」
『……』
「日曜日はそっち行くね。奏が観たいって言ってた映画見に行こう。それでも許してくれない?」
私がそう言うと、
『…しょうがねえな』
と、奏は小さな声で言った。
昔から全然変わらない素直で単純な彼に、
私はつい笑ってしまう。
「じゃあ決まりね」
私たちは日曜会う約束を交わして、そのあと一時間ほど話したあと電話を切った。