恋愛境界線
第8章 先生の過去と、私の選択
「雪花っ!」
デートで一緒だったときの服装のまま、本郷先生は私たちのほうへ走ってくる。
「先生…」
私は思わずベンチから立ちあがり、先生の姿を見つめる。
先生は私から数歩離れた場所で立ち止まる。
「雪花、何で奏くんと一緒にいるの?」
「それは…」
「一緒に車で帰ろう。ほら」
先生が私のほうへ手を伸ばそうとすると、その手を遮るように奏が私の前に出る。
「その前に聞きたいことがある」
「何だよ。さっきもよくわからないことを言ってたけど、一体何を…」
「元カノの写真」
私は覚悟を決めて、声に出す。
「見ちゃったの。ダッシュボードに入ってた卒業式の写真」
私がそう伝えると、先生は目を見開いて驚いた顔をする。
「びっくりしちゃった。私に…似てたから。
初めて会ったとき、私を見て驚いた顔をしたのは、その彼女に似ていたからなんだね」
「……」
私が目を見つめると、先生は目をそらしてうつ向く。
ああ。
その沈黙が答えなんだね。
私は、本当に彼女の代わりだったのね。