恋愛境界線
「……さん…」
「…坂さん」
声が聞こえて、目をゆっくりと開ける。
見たことがない天井、鼻につく消毒液のにおいが漂う。
保健室…?
いや、病院…?
「目覚めましたか」
男性の声が聞こえて、声のする方にゆっくりと視線を向ける。
誰かが私のベッド脇に立っていて、私の表情を伺っているようだった。
あれ…この声、そこにいるのは本郷先生…?
まさか、そんなわけ…
でも私が先生の声を間違えるわけない。
先生、来てくれたんだ…。
「看護師を呼んでくる」
やだ、行かないで…
そう言って先生がその場を去ろうとするので、私は起き上がって先生の腕を掴む。
「行かないで!」
もう離れるのは嫌。
あんな風に他人のふりをするのも嫌だよ。
自分から別れたくせにこんなこと言ったら、先生…呆れるかな。
手のひらから伝わってくる先生の体温に、思わず涙が零れて布団に落ちる。
「もう離れたくないよ…だから行かないで」
そう言って先生の背中にすがり付いて、涙を流す。