三坂くんはまちがってる
始まりと、思わぬ事態
少し時は遡って、
私が高校一年生に入る一週間前の話をする。
父が、突然仕事を辞めた。
母は元々病弱で、仕事はせず専業主婦をやっていたから生活の支えは父の収入だけだった。
そして私は高校に進学する直前。
兄は大学二年生になる手前だった。
どう考えてもこれじゃあ生活できない。
私と兄は散々父を責めたが、
ただすまん、とばかり頭を下げるだけで
現状は何も変わらなかった。
「俺、大学辞めて就職するから」
兄は教師になるという夢があった。
家族のためにそれを犠牲にするなんて、
私には許せなかった。
だから、
「私も、高校に入ったらバイトするから。
お兄ちゃんも、大学は辞めなくてもいい
二人でバイトしてお金貯めようよ」
「でも、栞の高校、バイト厳禁だろ」
「それは、どうにかする。なんとかする。
だから絶対、大学だけは辞めないで」