三坂くんはまちがってる
心配気な兄の視線に少しドキリとしたが、
笑ってみせた。
「大丈夫、なんとかするから」
バイトして、お金貯めて、ここで生活していくために。
こんな小さな脳みそで考えられる精一杯の考え。
学校では地味で陰気臭く、
教師にもクラスメイトにも目立たない存在になる。
バイト先では、明るくて活発でガッツリメイクした
派手な女になる。
だれも、同一人物だとは思うまい。
それから唯一の救いは、
私の苗字が「山田」であるということ。
ありふれたこの名前なら、
たとえ同じ名前であったとしても何も思われないだろう。
思い描いてた、
友達や彼氏なんかと青春を送る高校生活とは程遠いけれど
これもまた、運命だと受け入れて。
私の二重生活は、始まったのです。