あなたの青 わたしのピンク
今回から一緒にツアーを回る事になった

ベーシストの彼がリハの休憩中に皆と話をしていた

女性に初めて指輪を買った日のこと

彼女に催促されて指輪を買う羽目になった彼は

不機嫌そうにショップでの居心地の悪さを語っていた

きっと俺もそうなのだろうと思っていた

前回の時は用事の買い物を済ませる目的を確実にこなすことしか

頭になかった

けれど今回は違った

若い女性の店員さんが声を掛けてくれた

「どのような品物をお探しですか。」

アクセサリーの並んだカウンターの向こうから

そう話かけてくれた
ショーウインドーに並ぶ商品を見るのを止めて

視線を彼女に移した
肩にかかる髪を後ろで束ねた彼女は誠実そうな
笑顔を浮かべている

その笑顔に安心した俺は店員の彼女にはっきりと

「彼女に指輪を贈りたくて。」

そう語った

その時俺は今まで感じたことのない幸福感に包まれた

そうだ

俺には大切な人がいるのだと
もう一人ではないのだと

その気持ちは自分の胸を熱くさせた

そしてそれが一人の人間として

男としてとても誇らしい気持ちになった

店員の女性は俺のそんな表情をみて

同じ様に嬉しそうな笑顔を浮かべ

「それでは彼女が喜ぶ様な素敵な物にしましょう。」

と、商品の説明を始めたのだった。


俺はそのまま彼女に相談しながらどれにするかを決めた

この指輪を贈る日のことを


そして指輪のことをいつまでも彼女に覚えていてほしい

そう思った俺は

ライブのある五月にあわせて

緑色したエメラルドのついた指輪にした

明るいブルーの小さな箱を入れた小さな手提げを持って

お店をでた時

これを愛果に渡したら

必ず愛果に会いに日本へ帰ってこなければならない

そう思った

いつも真面目で俺を困らせる様なわがままを言わないけど

本当は寂しがりやで優しい愛果を悲しませないように

この指輪をつけた愛果の笑顔を俺だけのものにする為に



< 41 / 81 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop