初恋の花が咲くころ
「それ、いつまで持ってる気?」
編集長室にて、桐生は、雑誌を膝に乗せて仕事をしている咲を呆れたように見つめた。
「なんか…感慨深くて」
「可愛いね」
全くその気はない桐生の言葉は、咲の心臓に矢を放つ。
「ほんと、それ。やめて欲しい…」
痛いほど高鳴る心臓を抑えて、咲は呟いた。
「なにが?」
「いえ、なんでも。あ、編集長。編集長に対するあやめの株が、どんどん上がってますよ」
静かにしていたら、自分の鼓動が聞こえてしまうのではないかと思った咲は、桐生が食いつくネタを持ち出す。
「本当か?」
ほら、嬉しそうな顔する。
「本当です。さっきも新しいスーツ、褒めてましたよ」
「そろそろ、デートに誘ってもいいと思うか?」
心臓が急に重くなった。
咲が真顔になったので、焦ったように言いなおす桐生。
「冗談だ。それにはまだ早いよな」
「そ、そうですね…」
視線を合わせないように、あたかも今重要なメールが届いたかのようにパソコンに向き直る。
心臓がどくどくなっているのが、自分でも分かった。
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