初恋の花が咲くころ

編集長とあやめが一緒にいるところを目撃したのは、これで何度目だろうか。カフェテリアで二人が話す様子を見た咲は、心がしゅんとするのを感じた。しかし、遠巻きに見てみるとお似合いのカップルだ。今まではそこまで意識していなかったが、よく見ると編集長も整った顔つきをしている。二人が並ぶと、まるで別世界にも感じる何かがある。
なんだが疎外感が否めない。
編集長の願いが叶った半面、もう自分のミッションは終わったのだと気がつかずにはいられなかった。
私の居場所は…
「何してんの？」
突然頭に重みを感じで見上げると、棗が右腕を咲の頭の上に乗せて立っていた。
「棗…重い」
「へーあの二人、付き合ってるの？」
咲の傷に拍車をかけるように棗が、見なまで続ける。
「ま、あそこまで美男美女だとお似合いだな」
さっき私が思ったことと、丸っきり同じことを言っている。
「本当にね。って何しに来たの？」
「何しにって、お昼だよ。でもさ、今手持ちなくて、奢って」
お願いのポーズでいう棗を見ると、パシらされていた学生時代を思い出す。でも昔の名残が残っているせいか、なぜか断ることもできない。
「…今日だけだよ」
「さんきゅ」
咲の肩を組みながら、棗は言った。二人で券売機に向かいながら、咲は言った。
「あのさ、ここ田舎と違うんだから、あまりベタベタしてると誤解されるよ？私の従弟だってことも知られたくないくせに」
「あ、言ってなかったっけ？千里も営業課なんだ」
ハンバーグ定食を選びながら棗が言った。咲は、ホットサンドセットを選ぶ。
「え、ちーちゃんも来てるの？こっちまで？」
「そう」
千里（ちさと）さん、通称ちーちゃんも中学生の頃から棗の同級生で高校の頃からの彼女だ。そういう棗の、彼女に対する一途なところは尊敬する。
「え、もしかして、彼女のところに泊まってるって…」
２人は近くに適当な場所を見つけ、そこに座った。
「千里のおばさんがこっちに住んでてさ、しばらくの間、同居させてもらってんだ」
「そうなんだ」
「ちょっと肩身狭いから、早めに出たくて、今は貯金中」
豪快にハンバーグを食べながら棗は言った。
「だから、時々お前んち行くな」
「やめて」
「なんだよ、懐かしいだろ。昔に戻ったみたいで」
棗がからかうように笑う。
「昔になんて戻りたくないし」
サンドイッチを口に運びながら、咲は冷ややかに答えた。
「またまたー。照れるなって」
そう言いながら棗は、咲の頭を乱暴に撫でる。
「やめて」