初恋の花が咲くころ
「デザイン部は、編集部とは違う忙しさがある…」
家に着くなり、まずはソファーに倒れこむ。今目を閉じたら、明日まで目を覚ましそうにないと思いながらも、咲は落ちてくる瞼にあらがえないまま眠りについた。

スマホが鳴っている音がして、咲は薄目を開けた。ソファーで寝てしまったせいか、体が痛い。まだ完全に覚醒していない頭で、テーブルの上にあるであろうスマホを手探りに探す。
着信先を見ないまま、寝ぼけた声で咲は電話に出た。
「…もしもし?」
向うからは、何も聞こえない。
いたずら電話か…?
そう思った咲は、電話を切ろうとするがガラガラの声で「俺」とだけ聞こえた。
オレオレ詐欺か…
今度も電話を切ろうとすると、電話の相手は「今すぐ来い」と言って切れた。
「…え?」
今の命令口調には聞き覚えがある。
「もしかして…」
着信履歴を見ると、やはり今の電話は編集長だった。
「今すぐ来いって言ったよね…」
すでに覚醒していた咲でも、今の会話だけでは頭が働かない。
「え、どうゆうこと?」
混乱しているとピロンと音がして、編集長からラインが届いた。
そこには住所と、ねつ・のど。とだけ書かれていた。
「え、風邪ひいたってこと?」
咲は、帰って来た服のまま近くのカバンを掴み、送られて来た住所の家へと急いだ。
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