初恋の花が咲くころ
最悪な日々
ある朝、咲がいつもよりも早めに出勤すると、まだ誰もいないオフィスで、桐生が向田さんのデスクで、誰かと電話越しに話をしていた。いつになく真剣な表情で、入って来た咲に気がつくと、「分かった、聞いてみる」と言い、すぐに電話を切った。
「どうかしましたか?」
「お前のデザイン部への異動が、決まりそうだ」
「え!本当ですか?」
咲は、持っていた飲み物を危うく落とすところだった。
デザイン部へのヘルプ出勤から、自分はやっぱりグラフィックデザインが好きだと自覚したし、何よりこの会社に来て、初めて心から誰かの役に立てていると実感できた。そして、最終日にはみんなドロドロになりながらも、一体感が生まれたのだ。
「本当ですか!?」
聞き間違いが起きないように、自分の妄想ではないように、桐生に詰め寄り、もう一度確認する。桐生はしっかりと頷いた。
「きゃー!嬉しい!ありがとうございます」
咲は、飛び上がって喜んだ。しかし、桐生の複雑そうな表情を見て、飛び跳ねるのをやめる。
「分かってますよ。あやめのことですよね?異動したあとでも、いつでも聞いて下されば、お教えしますから」
どうせ、この男の頭にはあやめのことしかないんだろう。
しかし、そこではたと気づいた。
「ってか、もう自分で聞けるんじゃないですか?」
カフェテリアでのあの仲の良さを見れば、もう深いところまで話をしていても変ではない。
「いや」
桐生は即答した。
「いや、まだ月島を前にすると緊張する。美人すぎるからな」
「さいですか」
聞かなきゃ良かったと、すぐに後悔する。
「どうかしましたか?」
「お前のデザイン部への異動が、決まりそうだ」
「え!本当ですか?」
咲は、持っていた飲み物を危うく落とすところだった。
デザイン部へのヘルプ出勤から、自分はやっぱりグラフィックデザインが好きだと自覚したし、何よりこの会社に来て、初めて心から誰かの役に立てていると実感できた。そして、最終日にはみんなドロドロになりながらも、一体感が生まれたのだ。
「本当ですか!?」
聞き間違いが起きないように、自分の妄想ではないように、桐生に詰め寄り、もう一度確認する。桐生はしっかりと頷いた。
「きゃー!嬉しい!ありがとうございます」
咲は、飛び上がって喜んだ。しかし、桐生の複雑そうな表情を見て、飛び跳ねるのをやめる。
「分かってますよ。あやめのことですよね?異動したあとでも、いつでも聞いて下されば、お教えしますから」
どうせ、この男の頭にはあやめのことしかないんだろう。
しかし、そこではたと気づいた。
「ってか、もう自分で聞けるんじゃないですか?」
カフェテリアでのあの仲の良さを見れば、もう深いところまで話をしていても変ではない。
「いや」
桐生は即答した。
「いや、まだ月島を前にすると緊張する。美人すぎるからな」
「さいですか」
聞かなきゃ良かったと、すぐに後悔する。