初恋の花が咲くころ
そして悪いことが一つ起こると、なぜかいくつも引き連れてくる。
久しぶりに行われた月に一度の焼肉・パジャマパーティー。
なぜか今回は、呼んでもいないのに棗と棗の彼女ちーちゃん(千里)も来た。
「大勢いるほうが楽しいでしょ」
棗が呑気に言い、あやめがぴしゃりと言った。
「お前は、酒買って来い」
「棗行くなら、私も行ってきます~」
空気を読むのが上手なちーちゃんは、すでに酔っている棗を連れて外へと出かけて行った。
「飲み過ぎじゃない?」
いつもはそこまで量と飲まない咲が、すでに缶ビール3つと白いワインをビン飲みしているのを見て、あやめが心配そうに言った。
「いいの。色々と忘れたいから」
先週の編集長逆切れ事件が、咲の脳内にずっと引っかかっていた。
朝まで飲み明かすこの日をどれだけ待ち望んだことか。
あの後、別のフロアで編集長に偶然会った時、咲は渾身の勇気を振り絞って挨拶をしたというのに、無視されてしまった。自分が何か怒らせるようなことをしたのかと思い、謝ろうと決心しても、そのチャンスをくれない。ただでさえ、部署が違うので会う頻度がめっきり減ったというのに、偶然会ったとしても目を逸らされてしまう日々が続き、咲は心身ともに疲れ切っていた。
「なんなのよ、あいつ―!私が何したってのよー!」
近くにあったあやめのビールを一気飲みしてから、咲は叫んだ。
「どれもこれも、棗のせいよ…」
「荒れてるね~。何があったか知らないけど、大丈夫?」
「大丈夫じゃない」テーブルに突っ伏す咲。
そのまま静かになった咲の背中をさすりながら、あやめはしばらく黙っていた。
「今日は、あまり飲まないね」
咲があやめの方を見ると、少し気まずそうにあやめは言った。
「あのね…。私、桐生さんのこと好きかも」
心臓が口から飛び出した。…気がした。
「だから、ちゃんと付き合おうと思ってる」
あやめの真剣な表情が、冗談ではないということを物語っている。
「…咲?」
黙ったまま宙を凝視している咲に向かって、あやめは声をかけた。
「…気持ち悪い」
そして、その夜はそのまま明けることになった。咲は一人、トイレを占領したまま。
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