きみはお菓子よりもあまい
「……なんで?」
「俺の父さん、パティシエなんですよ」
「そうなんだ!」
「甘いものばかり作って。正直、理解不能でした」
 …………?
「甘いものって。女の食い物だと思ってたので」
 たしかにそのイメージはわたしにも拭いきれない。だからスイーツ男子って聞いたら珍しいと思う。
「ほら、よく文房具や服なんかに。スイーツがデザインされてるものを女子が持ってるじゃないスか」
「うんうん」
 女の子向けのスマホケースや鞄にもありがちだよね。
「なのに父さんは生クリームとか。チョコレートとか。苺扱ってて。なにやってるんだろうと思ってました」
「素敵だね、お父さん」
「…………!!」
「だから窪田くんも上手いんだ?」
「まあ。それなりには」
 窪田くんは。お父さんの背中を見て育ったんだね。

「将来は。窪田くんもパティシエに?」
「それだけは勘弁して欲しいっス」
「え!?」
「それで俺が料理に自信ある理由についてなんですが」
「お父さんの影響ってことだよね?」
「それ以上に」
 …………?
「俺はセンパイの役に立ちたいんです」

 果たして、わたしに。
「美味いの。作ってみたくないですか」
 この癖あり男子を満足させられるものが作れるのでしょうか。
「見た目から完璧で。部員みんなの舌を、うならせるような」
「うーん。そんな日が来るかなぁ」
「センパイは。料理、上手くも美味くもないですが」
 めちゃくちゃ否定されてるな。
「俺がいれば。なんとでもなりますよ」
「ほんと?」
「練習しましょう。俺が味見しますし。盛り付けまで指導します」
「食べてくれるんだ」
「俺以外には。食べさせたくないくらいなので」
「……っ」
「センパイのマズい料理、いくらでも完食しますから」
 そっと、頭に手を乗せられる。
「ひなたセンパイのことも。食っていいっスか」
 ――この後輩、
「なっ……なに言ってるの!?」
「そのままの意味で解釈してもらえれば結構ですよ」
 お菓子よりあまい。


【きみはお菓子より甘い】
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