名もない詩集
三国の駅の
側にあった

ドーナツ屋さんの
棒に刺さった
浮き輪の柄の
可愛いドーナツ

いつか買うぞって
思いながら
買えずに
飛行機代に
毎週消えてた

仕事に勉強に
遠距離恋愛に
忙しくて

白衣にスーツに
着替えて
今度は私服にかえて
難波の駅に
一人で行けば
すぐに迷子

帰りの電車が
わからない

門限が迫ってる

信じられない
どうしてこんなに
たくさん
電車があるの!?

車掌さんに聞いて
何とかセーフ

門限9時は
早すぎるよ

フェリーで海を渡る夜
寝屋川の
ツーリング中の
お兄さん達に
翌朝気をつけてなって
手を振られて
三国にゼロハン
簡単な道の筈が
何故かまた迷子

しかも豪雨に降られて風邪ひいて欠勤

夢を途中で捨てて

フェリーで帰る
夜の船のデッキ
泣きもしないで
今思えば
ずいぶん無理してた

ただの
短い日々だったけど

浮かぶのはやっぱり
浮き輪模様の
棒に刺さったドーナツ

あれだけは
心残り

大阪帰りの
友達にまみれて
みんなでコテコテの
大阪弁喋ってた私が
今は東京弁なんて
信じられない

ちゃってさー

なんて信じられへん!

って言ってた私が

今では

ちゃってさー!
ちゃってさー!
ちゃってさー!

って
一日
何回言ってるんだろう

でも何故か
住んで長いのに
いつまでも東京になじめずに

大阪弁て汚いよなぁ!

って言われる度に
抗議する

お前は本当に
綺麗に
標準語を喋るねと
東京暮らしの
叔父さんにまで
言われるけど

八百屋で
大根のアクセントが
皆違う
誰にも聞けない

あの時
飛行機乗らずに
ドーナツ買ってたら
こんなに
未練はなかったはず

棒に刺さってるのが
良かったんだと思う

大阪が大好きな私の
大阪の思い出は
棒に刺さったドーナツ

さっき
京都の人と話したら

すぐアクセントがおかしくなるし

キレたら
しっかり
大阪弁になるのは
キレられた相手だけ
初めて知る
私の秘密





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