行き着く先は・・・甘い貴方の檻の中?
「西園寺さん」

企画会議室を出ようとしたさくらと桃子の後ろから、南條が声をかけた。

「さくら、私、先に帰っとくね。思い付いたネタを書きとめないと忘れそうだから」

桃子は居てもたってもいられないというように、足早に部屋を出ていった。

「俺も企画部に行ってくる」

廣瀬も楽しそうに、廊下を駆け出していく。

企画会議室には、南條とさくらだけが残された。

「何か、ご質問でも?」

さくらの問いかけに、南條は肩を竦め

「個人的な連絡先をお聞きしてもいいですか?」

と微笑んだ。

「会社を通した連絡では何か不都合でも?」

さくらは慣れた様子で、南條の申し出を茶化す。

「あなたはタレントではないし、TBUも芸能プロダクションではない。マネージャーもいなければ、モデルとなるあなたをフォローする存在は不在なはずだ」

確かに、TBUには、突然降って湧いた"にわかモデル"を管理する部署なんて存在しない。

しかし、もともと、共同経営者の立場で会社の運営に関わってきたさくらにとっては、自分のタレント活動を自分で管理することぐらい、簡単なことだと思えた。

「ご心配には及びません。9ヶ月後には、全ての業務を引き継いでTBUを去る準備をしていましたから、今は大きな仕事を担ってはいません。だから、この企画に関わる8ヶ月間のセルフプロデュースぐらいなんてことはありません」

さくらはアッシュグレイの緩くウェーブがかった前髪をゆっくりと掻き上げて妖艶に笑った。

真っ白な肌と、よく見ると青みがかった薄いグレーの瞳。

ニューゲームのキャラクター、mirayの方向性が決まって以来、さくらの中でも新しい自分が目覚めつつあった。

さくらの中性的で底の知れない魅力を引き出すフェロモンが、南條の心を乱していく。

波留斗自身が、miray、いや、さくらの魅力にすでにはまっているのかもしれない。

この時点で、南條は、新しい微炭酸飲料水のヒットを確信した。

「確かに、TBU社内だけの企画なら、あなた一人でもうまく立ち回れるかもしれない。しかし、今回はわが社との共同企画だ。モデルを使ったコマーシャル活動には我々の方が慣れている」

南條は、さくらの前に立つと、

「このプロジェクトの期間中、私にあなたを守らせてください」

と言って、さくらの両手を握りしめる。

さくらは、僅かに首を斜めに傾けると、小さく瞬きをして同意を示した。





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