枯れた涙にさようなら。
考えてることに夢中になっていると、それ以外のことが疎かになってしまう。そんなことが最近続いてしまっている気がする。
『あ、ごめん美奈ちゃん。教科書間違っちゃったから取りに戻る!』
そう、友人に伝えたのは数分前。早めの教室移動を行っていたため、そう急がなくても時間があったのは助かった。
鍵付きのロッカーから手に取ったのは世界史の教科書。その代わりにさっきまで間違って持っていた現代文の教科書を収める。同じ水色で、尚且つ厚さも似ているとは言えこの一月でもう三度目になる。
もう五年にもなるのに、なんてね。
「わっ」
教室の扉をくぐる時、誰かとぶつかってしまい、後ろに体重がかかって視界が不安定になった。急にはうまく立て直せなくて。あぁ尻もち確定、なんて考えていたのに、ツンっと腕が引っ張られた時には普段とは違う角度で画面は止まっていた。
「あぶな、かった…」
どうやら同じクラスの天満夏生くんが私の腕を掴んでくれたようだ。
「あ、ありが…」
お礼を述べようとしていると、バサバサバサっと本が落ちる音。床を見ると、私の手を掴んだことにより、天満くんの教科書や本が落ちたみたいだった。
「ごめんなさいっ」
慌ててしゃがんでそれらを拾う。天満くんも本とか読むんだなぁ、なんて失礼なことを思いながらも。
「いや、いいよ。坪井さんに怪我がないみたいで良かった」
それに比べて天満くんは私に優しい言葉を投げかけてくれる。
「こちらこそ助けてくれてありがとう。あ、この本…」
よく見ると、見慣れた題名が書いてある本だった。
「あぁ、これ?男が恋愛小説?って思うかもしれないけど……」
「そんなことないよ」
「切なくて好きなんだ」
そう、少し眉を下げてはにかむ天満くん。このお話が、どれだけ切ないか私だって知っている。
「昔読んだことあってさ、図書館で見つけて懐かしくて借りてみたんだけど、涙出そうになってこれは学校で読むものじゃないなってなった」
だからもし坪井さんも読むつもりなら家で読んだ方がいいよって、天満くんはアドバイスをくれた。
「実は私もこれ好きなんだ。なんか感情移入しちゃって…途中から涙止まらなくて号泣した」
だって主人公が私とよく似てる。
ただ違うのは、この先の未来のこと。出来ることなら、私だってこの結末を望むもの。
「あ、もちろん家でね!これ学校で読めないよね〜図書館に置くの罠!」
なんて冗談を言った。
「坪井さんも、もしかしてさ…」
「ん?」
「いや…なんでもない!てかさ、これ知ってる人初めて出会ったかも」
「私も!」
高校にあがるまでずっときいちゃんと一緒に過ごしていたためか、きいちゃん以外の男の子とこんなに沢山話したことがなかった気がする。久しぶりの体験のせいか、すごく楽しかった。