もうひとりの極上御曹司
普段から緑を叱りとばし、厳しい言葉をかけてばかりの愼哉だが、今はそんな様子はまるでなく、ただ緑を気にかけている。
「愼哉さん……?」
しばらく黙り込んでいた愼哉が、千春の頭を撫でながらふっと息を吐き出した。
「俺と悠生には、桃子という姉がいたんだ。とはいっても、生まれた翌日に亡くなったから、会ったことはないけど」
「お姉さん? え、初めて聞いた」
千春は体を起こし、愼哉と視線を合わせた。
愼哉の黒い瞳が寂しげで、胸が痛んだ。
「心臓が悪かったらしい」
「そんな、せっかく生まれてきたのに……」
「今でこそ父さんが木島家のトップになったから親戚たちからの煩わしい声も届かないけど、昔は相当大変だったんだ……母さんはとくに」
千春を再び胸に戻し、愼哉は話を続ける。
「うちの両親は政略結婚だけど、運よく互いにひと目惚れ。二人は見ての通りの相思相愛夫婦だ。母さんは木島家という特殊な世界に嫁いで大変だっただろうけど、彼女も木島に負けない裕福な家の生まれで根が明るいからどうにかやってたんだ」
「うん」
千春は大きく頷いた。
今の木島夫妻を見れば、愛ある政略結婚だったことはよくわかる。
「親戚たちから木島家の跡継ぎを望む声も多くて、プレッシャーもあっただろうけど、幸いにも結婚してすぐに妊娠したんだ。だけど、赤ちゃんは生まれてすぐに死んでしまった」
「ん……」
当時の緑の悲しみを想像し、泣きそうになる。
そして、ふと気づいた。