もうひとりの極上御曹司
「もしかして、緑さんが私や亜沙美さんをかわいがってくれるのは、その亡くなった赤ちゃんのことがあったから……?」
「それは俺にもわからない。ただ、千春のことは本当の娘のように、いや、もうとっくに自分の娘だと思ってるんじゃないか?」
「だったら嬉しい。私も緑さんを本当のお母さんだと錯覚するときがあるからありがたい」
「ありがたいと思ってるのは母さんのほうだ。背負い続けていく苦しみが消えるわけじゃないけど、心から笑うことが増えた。それは、千春のおかげだ」
愼哉の改まった声に千春は息を詰め、決して明るい話ではないだろうと察しながら続く言葉を待った。
「初めての子供を亡くして心身ともに疲れ果てて悲しんでいる母さんに、親戚たちは亡くなった赤ちゃんが女の子でまだよかったと言ったらしい。女性が木島家の跡を継いだことはないし、やっぱり男性じゃなきゃだめだっていう悪習もある。だから、まだよかったと……そう言ったんだ」
「そんな」
千春は両手で口元を覆い、目の奥が熱くなるのを堪えた。
愼哉の年齢を考えれば、緑が最初の子供を失ったのは三十年ほど前のことだろう。
当時の考え方だと女性は後継者として認められなかったのかもしれないが、緑にとってその言葉は刃のように鋭くつらいものだったに違いない。
男の子でも女の子でも、我が子には違いないのだから。
愼哉は千春を慰めるように背中をトントンと叩いた。