もうひとりの極上御曹司
「あー、まただ。落ち込まない落ち込まない」
不安を押しやるように深呼吸を一度。
先のことはわからない。
両親が突然亡くなってからというもの、千春にとって未来はあやふやで思い通りにできないものとしか考えられずにいる。
だからこそ今以上に幸せになれる可能性だってあるのだと、自分で自分を力づける努力もしているのだが……。
そのとき、カバンの中のスマホがメッセージの着信を告げた。
『今日は来るのが遅いけどなにかあったのか?』
予想通り、千春を心配する駿平からだった。
いつもよりも少し遅れているだけなのに心配しすぎだと、千春は苦笑した。
あと十五分ほどで着くと返事をし、カバンにスマホを戻そうとしたが、ふと気になりニュースアプリを覗いた。
今朝家を出る前にワイドショーで知ったニュースが、更に詳しく出ていた。
『木島グループ次期代表である木島愼哉氏の結婚間近。お相手は長い付き合いの美女』
千春は心もとない表情を浮かべ、記事に目を通した。
記事には国内最大の企業グループである木島グループの後継者である愼哉のプロフィールと結婚が決まったことに加え、相手の女性について漠然と書かれていた。
付き合いが長いということと、小柄な美人。
具体的なことがそれ以上書かれていないことに、千春はホッとした。
愼哉の結婚相手がどんな女性なのか、今はまだ知りたくないし想像したくもない。