もうひとりの極上御曹司
「ああ。千春もこの先ずっとご両親への思いに苦しみ続ける。というより、苦しんでいいんだ。無理に逃げなくていい」
「でも、そんなのつらい」
千春は何度も首を横に振る。
今でさえ両親への申し訳なさに苦しみ、どうしていいのかわからないのに、苦しみ続けるとはっきり言われ混乱した。
「千春、落ち着け。大丈夫だ。どんなに苦しくても、俺がこうして側にいる。千春が抱える苦しみを忘れるほど愛してやるから」
愼哉はそう言って腕の中で暴れる千春の耳元に熱い思いを注いだ。
「これからは千春が笑うのも泣くのも怒るのも、それに苦しむのも、その理由は俺だ。ご両親への苦しみが残っていても、それどころじゃなくなるほど俺が千春をがんじがらめにして愛してやる。だから存分に苦しんでいいぞ」
愼哉は千春の体をそっと引き離し、顔を覗き込んだ。
千春から涙に濡れ当惑した目が向けられ、満足そうに笑みを浮かべる。
「わかったか? 俺が千春の感情すべてを独占する。一生千春を愛して、俺以外のことはどうでもいいと思わせてやる」
「え? 愛してやるって、あの、愼哉さん?」
愼哉の堂々とした言葉が理解できず、千春はぽかんと口を開けたまままばたきを繰り返した。
存分に苦しんでいいだの、愛してやるだの、いったいこれは現実の言葉なのかと混乱する。
ただでさえ緑の苦しみを知り、千春の心はいっぱいいっぱいだ。
この状況をどう受け止めればいいか、答えを見つけ出せない。
愼哉は戸惑いを露わに見せる千春を愛し気に見つめ、くすりと笑った。
「これ以上、我慢するのはやめた。千春、結婚しよう。マスコミも俺の結婚が決まったと騒いでるしちょうどいいな」
「は? 結婚って、私と?」
愼哉は自分の腕の中でもがく千春を、更に強く抱きしめる。