もうひとりの極上御曹司
「千春、ずっとこうしたかった」
愼哉の舌が千春のそれを見つけ出し、躊躇なく絡みつく。
千春は息苦しさを覚えて愼哉の首にしがみついた。
「……好き。愼哉さん、好き、なの」
「ああ、俺も、愛してる」
「ん……」
どうしてキスを交わしているのかわからない。
好きだとか愛しているだとか言われても、完全に信じたわけじゃない。
愼哉とつり合わない自分が結婚できるとも、思えない。
けれど、今こうして力強く抱きしめられ、貪欲にキスを続ける愼哉を愛している。
離れたくないし、離れられないのも事実。
「愼哉さん、私……」
「そろそろ俺と結婚する覚悟はできたか?」
愼哉は千春の顔の両側に肘をつき、互いの額を合わせた。
「まあ、覚悟はあとからでもいい。とりあえず結婚する」
「そんな……」
愼哉の手が千春の胸元を意味ありげに動き、千春の口から吐息が漏れた。
「拒否も保留も認めない。千春を木島に嫁がせて母さんみたいに苦労させるのはかわいそうだから他の女と付き合ったこともあるけど、やっぱり無理だ。成長して青磁伯父さんの事務所で弁護士たちと笑い合うお前を見るだけで腹が立つのに、俺以外の男と結婚なんてことになれば俺は自分がどうなるかわからない。だから、結婚しろ」
愼哉の低い声が千春の体に染みていく。
しっかり聞き取ったはずだが、すぐに理解するのは難しい。
まるで嫉妬しているような言葉が嬉しい反面、本当に自分でいいのか不安が募る。
「本当に、私でいいのかな」
消え入るような声が何故か愼哉の笑顔を誘う。
「いいに決まってるだろう? どんどん成長して大人になっていく千春を十年以上見てきたんだ。そろそろ限界。俺のものになれ」
愼哉はくくっと笑い、かすめるだけのキスを落とした。