もうひとりの極上御曹司
ようこそ我が家へ
翌日、木島グループ後継者と目されている木島愼哉の結婚式が国内屈指の高級ホテル『アマザンホテル』で半年後に行われると、発表があった。
これまで何度か女性との噂があったにも関わらず決定的な写真を撮られることがなかったせいで、彼の恋愛事情は謎に包まれ、マスコミの目が絶えず向けられていた。
昨日、一部雑誌に掲載された結婚に関する記事で詳細は語られず、情報元は極秘という曖昧な内容からは信ぴょう性は感じられなかったのだが。
今回、グループのトップである愼哉の父、木島成市の名前で婚約が発表されたことで愼哉の結婚が確実となり、そのニュースはまたたく間に全世界に広がった。
結婚相手がまだ二十歳の若い大学生だということも話題となり、ネットでは愼哉の結婚に関する内容がいくつもトレンド入りすることとなった。
「私の名前がトレンドに入る日がくるなんて……」
千春は朝食の席で渡されたタブレットを見ながら、顔をひきつらせた。
愼哉の結婚相手として、千春のプロフィールも一部公開された。
婚約を発表すれば、愼哉の相手は誰なのかとマスコミが騒ぐのは目に見えている。
それならいっそ先手を打って公表しようという愼哉の決断によって、今朝早く千春に関する情報もマスコミに流されたのだ。
名前だけでなく顔写真までもが公開され、これからどうなっていくのだろうかと千春は不安でいっぱいになる。
朝早くには北海道にいる駿平から「おめでとう。初恋が実ってよかったな」と電話があり、兄は既にこの展開を知らされていたのだと察した。
昨日、緑が駿平を連れ出し千春を木島邸に泊まらせる段取りを整えたのも、すべて愼哉に早くプロポーズしてほしいという木島家の総意によるものだったと聞かされ、体中が震えた。
愼哉は緑の思惑に従うのが面倒で無視するつもりでいたのだが、いざ千春とふたりきりになれば、すぐにでも自分のものにしたいという独占欲に抗うことなどできなかった。