もうひとりの極上御曹司

「愼哉さんも、いよいよ結婚か……」

木島家本宅から出てきた愼哉の写真も載っていて、その凛々しさに千春の胸はドキリとする
しばらくの間その写真を眺めたあと、気持ちを切りかえるようにスマホをカバンに戻した。
夕焼けがキレイな空がゆっくりと流れるのを見ながら、千春はつり革を持つ手に力を込めた。

千春がアルバイトをしているのは大学から三駅離れたオフィス街にある「小平法律事務所」だ。
三十人ほどの弁護士が所属し、企業法務を得意とする事務所で、所長の小平青磁は今年六十五歳の温和な弁護士であり、駿平の上司だ。
小平は、駿平と千春が両親を亡くして以来、二人を気にかけている。
いち個人として、そして弁護士として、頼れる親戚がいないに等しい二人の将来のために力を尽くしてきたのだ。
駿平は子供の頃から学校の成績はトップクラスで、当然のように超難関大学の法学部に進学し、その後とんとん拍子で弁護士になった。
弁護士としてはまだ駆け出しだが、真摯な仕事ぶりで徐々に信頼を得つつあり、大きな仕事に携わる機会も増えている。
小平からのサポートに恩を感じていた駿平が弁護士の道を目指したの当然で、駿平の目標は小平のような弁護士になることだ。
小平は、駿平が無事に弁護士資格を得て自分の事務所で働き始めたことにホッとした一方で、まだ大学生の千春の将来を絶えず気にかけている。
弁護士という仕事柄、家庭環境にサポートが必要な子供と接する機会も多かったせいか、千春がこの先幸せになるよう、願っているのだ。
ちょうど事務所で簡単な事務仕事を任せるバイトを募集することになったときには、真っ先に千春に声をかけた。
千春を必要以上に心配する駿平に反対され、それまでバイト未経験だった千春だが、小平からの話だということと、駿平の目の届く場所でのバイトということで、駿平も渋々OKした。




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