もうひとりの極上御曹司
それから一年、所属する弁護士や事務員たちにもかわいがられながら千春はバイトを続けている。
仕事は弁護士についている事務員たちの手伝いで、コピーや書類の整理、郵便の仕訳や事務所の掃除など。
千春がいなくても困らず、もちろん事務所の戦力には程遠い仕事ばかりだが、せっかく働かせてもらえるのだからと真面目に取り組んでいる。
「ちはるー、どうしたんだよ。いつも早めに来てるのに、こんなにギリギリに来るなんてなにかあったのか? まさか途中で妙な男にナンパでもされたのか? え、大丈夫か?」
千春が事務所に入った途端、そう言って駆け寄ってくる駿平に千春はため息を吐いた。
顔色が悪いのは、ギリギリに駆けこんできた千春を心配していたからに違いない。
遅刻したわけでもないのに、ここまで心配するなんて面倒すぎる……。
事務所内にいる弁護士や事務職の女性たちは、駿平を見ながらいつものことだと苦笑しているが、駿平がそれを気にする様子もない。
「ナンパなんてされるわけないでしょ。こんな格好をしてる私に声をかける男性がいたら紹介してほしいくらい」
千春は自分のことなら自分が一番わかっていると、げんなりする。
色褪せたジーンズにグレーのパーカー。
履いているのはフルマラソン対応のスニーカー。
おまけに教科書で大きく膨らんだリュックを背負った自分に目を留める男性がいるとは思えない。