もうひとりの極上御曹司
「俺に千春を心配するなと言うのは、二度とまばたきをするなと言うのと同じくらいばかばかしいことだ」
「あのね、お兄ちゃん」
相変わらずの駿平に、千春はあきらめたように視線を向けた。
少し機嫌を取って仕事に戻ってもらおう。
「私は毎日ちゃんと気をつけてるから安心して。今日も忙しいんでしょう? 早く仕事を終わらせて、久しぶりに一緒にハンバーグを食べに行こうよ。私も今朝は忙しくて夕食の準備を何もしてないんだ」
「え、ハンバーグ? いいぞ、ハンバーグでもなんでも。そうだよな、たまには千春も家に帰ってゆっくりしたいよな。いつもおいしい食事を用意してくれてありがとうな」
千春に夕食に誘われたのがよっぽど嬉しいのか、駿平は途端に笑顔になる。
「お兄ちゃんもいつもお仕事お疲れ様。だから、お互い早く仕事を終わらせてハンバーグに行こう。ね」
「わかった。そうだな。明日の裁判の準備が終われば今日は店じまいだ。さ、気合を入れて頑張るか。あ、帰りには千春の大好物のモンブランを買って帰ろうな。で、おいしいコーヒーを淹れてゆっくり食べよう」
「……そうだね」
予想通り、モンブランのお土産付き。
千春は表情を崩して嬉しそうに笑っている駿平の姿に、弁護士として大丈夫なのかと不安になった。
この姿をクライアントが見たら、弁護の依頼を躊躇するのではないだろうかと肩を落とした。