心に一滴の雫を。
はじめに出会った凱斗にさえ、自分から触れることは(多分)しなかったのに。

ブンブンと握手のように腕を振ってから、それに気づいた。

「………」

「っ、すみませんっ!」

普段なら絶対しない行為に自分自身が戸惑ってしまう。

けれど少なくとも、今の行動は自分の意志ではなかったように感じた。

「…あ、気にしないで」

大丈夫だと言う和樹の顔が、恥ずかしくて見れない。

これでは痛い沈黙が続く…と思われたその時。

「……ちょっとこっち」

小声で言ったのは凱斗。

「えっ?何……?」
< 32 / 60 >

この作品をシェア

pagetop