果報者
そうして彼女は退社した。



彼には異動と言って。



引越し先もどこに行くかも
告げなかったという。



私はこの時
心のどこかで紺ちゃんを疑った。



なんで何も聞いてあげなかったのか。
どこに引っ越すのかも聞かなかったのか。


それがほんとに彼氏の役目なのか。






でもね、今なら分かるよ。



今、目の前で
今にも溢れ出しそうな涙を必死に我慢して
唇を噛み締めて聞くあなたは



ずっとまこのことを
探していてくれたんだね。



あなたも辛かったよね。
知りたかったよね。


よく我慢したね。



当たり前にあなたの未来には
彼女がいたから。




黙ってて



我慢させて




「ごめんね、紺ちゃん。」





そして我慢し続けていた彼の涙は
止まる事無く溢れ出した。
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