果報者
彼女たっての希望で
引越しを明日に控えた今日、
俺と彼女は湖に来てた。



昼までのはずの仕事が夕方まで伸びてしまい
結局遠出なんかは出来ず
いつも通りの場所へ。






「ほんま申し訳ない。」


「もう大丈夫だって!」


「いや、でも............」






ここに来るまでの車の中でも
ずっとこのやり取りの繰り返し。



謝る俺にしつこいと笑う彼女。



最後の日まで我慢させてばっかりで。







「崇裕くんといれたらそれでいいんだよ。」





まっすぐに前を見つめるその横顔は
家では全く気付かんかったけど
前より少し痩せたように感じた。


夏の水面は荒くなくて
でも夜の風は少し冷たくて。



そんなことを考えてたら
俺の手に何かが触れた。



彼女の手やった。
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