現実主義の伯爵令嬢はお伽話のプリンセスと同じ轍は踏まない
だってグレースの知っている常識からしたら、それくらい有り得ない事だったのだ。

「だって、ヴェネディクトは血縁でもないし、それにそれに……」

上手く説明出来ないグレースをあやすように握られたヴェネディクトの手が、ゆっくりとグレースの手を撫でる。

「グランサム公爵は随分前に奥様を亡くされていてね、お子さんもいない。甥が一人おられたけど、数年前に大陸に渡ってしまって今は近しい血縁者はいないんだ。だから自分の死後は爵位を返納して、財産は色んな団体に寄付するって決めて。公言してたんだ」

「そう……なの?」

「グレースはほとんど社交界に出てないからね。噂話も好きじゃないし、知らなくても当然だよ」

仕方ないよ、と苦笑されてグレースも苦笑いするしかない。
社交界にデビューした直後に父親が病に倒れたせいで、ほぼ夜会に出た事がない。細々と同じ年頃の令嬢が主催するお茶会には出席していたが、そこでの話題は結婚相手に相応しい貴公子やドレスやオシャレがほとんど。爵位や事業の話は聞いた事がなかったのだ。
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