現実主義の伯爵令嬢はお伽話のプリンセスと同じ轍は踏まない
「こちらでございます」

丁寧に案内してくれた執事が書斎とおぼしき扉の前でゆっくりと立ち止まった。

「ありがとう。ここでいいよ」

彫刻の施されたウォールナットの扉は中々の圧迫感だが、ヴェネディクトには慣れた場所なのだろう。執事に退がる許可を出して臆する事なく自らノックする。

「グランサム公、ヴェネディクトです」

そしてそのまま、返事も待たずにガチャリとノブを回した。

「ヴェネディクト!待ってまだお返事が……ああっ」

なんとか裾を引いて止めようとしたグレースは間に合わなかった。部屋へと歩き出すヴェネディクトに引きずられるように一緒に部屋に入ってしまった。

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