現実主義の伯爵令嬢はお伽話のプリンセスと同じ轍は踏まない
現状確認
「グレース!こんなところにいたのかい」

背後からかけられた声にゆっくりと振り向くと、急ぎ足でこちらに来る幼馴染の姿があった。

「あら、ヴェネディクト。どうしたの?来週まで伯爵と領地のはずじゃなかった?」

小高い丘に置かれたベンチでゆっくり空を眺めていたグレースに声をかけたのは、隣家に住むヴェネディクトだ。
シーモア伯爵家と同じ中流貴族ゴドウェル伯爵家の次男で、現在二十歳のグレースよりも二歳年下の十八歳。高身長に金髪碧眼で、女神のえこひいきを受けたとしか思えない顔立ちは女性ばかりか男性までも振り向かせ、幼い時から見慣れているグレースさえも時々見惚れてしまうほどの美形。しかも髪と瞳の色合いが不思議な陰影を持っているので軽薄な印象は与えないという完璧さまで持っている。

財産も爵位も継げないのにその聡明で穏やかな性格と温厚な人柄で多くの令嬢からモテている、自慢の幼馴染だ。

「父上が急に王宮に呼び出されてね。視察を切り上げて一緒に戻ってきたんだ。それよりグレースこそどうしたんだい?こんな人通りの少ない場所に一人っきりだなんて不用心過ぎるよ」
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