現実主義の伯爵令嬢はお伽話のプリンセスと同じ轍は踏まない
レディが侍女も連れずに一人で外出するのは眉をひそめられる行為だ。それを考えればグレースの行動は確かに褒められたものではないけれど、軽く睨まれても怯んだりしない。人も建物も多い王都で、誰にも邪魔されずにゆっくり心落つけられる場所は貴重なのだ。

それにヴェネディクトと違ってグレースの容姿は平均レベル。ダークブラウンの髪も翠の瞳も自分では気に入っているけれど、人の目を引くほどじゃないのは知っている。
そんな自分を選り好んで襲う物好きはいないだろうというのがグレースの見解だ。

「人通りが少ないって言っても王立公園の中ですもの。下町の路地裏じゃあるまいし、心配し過ぎよ」

つんっと顎を上げてそっぽを向く生意気で強気な返答にヴェネディクトの眉は険しくなったけれど、それはグレースの態度に怒った訳じゃない。

「ーーーシーモア伯夫人に何か言われたの?」

シーモア伯夫人。グレースの父シーモア伯爵と再婚した継母の名を出す時にヴェネディクトの口が苦いものを吐き出すように発音するのは、グレースに対する行動を知っているからだ。
< 6 / 124 >

この作品をシェア

pagetop