現実主義の伯爵令嬢はお伽話のプリンセスと同じ轍は踏まない
「うん。確か十歳くらい離れてたんじゃないかな?もう少し近ければ、レディング伯爵も迷わず彼を婿に考えていただろうね」

「そう……」

一族内で結婚すれば財産が減る事もないし、爵位も守れる。下手な相手と結婚されるよりも親としてはずっと安心だろう。貴族としては当たり前の考え方だけど、きっとそれはイーディス嬢の希望とは違う。
彼女はもっと恋や結婚に夢を見ている。見目麗しい王子様の如き男性から運命的な求愛を受ける日が来るのを信じているだろう。
それはきっと、長身で優しくて神に愛されたと思う程の美形で……。

そう考えながら、グレースはゆっくりと目の前に座る人を観察する。

輝く金の髪、吸い込まれそうな青い瞳、優しく穏やかな笑みを浮かべた唇、すらりと長い手足、細く見えてしっかりとした体躯。世の女性が考える理想を体現したような容姿。

きっとカーライル子爵は気づいているのだ。ヴェネディクトがイーディス嬢の理想に近い事も、彼女の心のうちに恋に成長するかもしれない感情がある事も。

「ヴェネディクトはカーライル子爵にも気に入られてそうね」

じっと見られた挙句意味不明な事を突然言われて、ヴェネディクトは軽く片眉を上げた。

「急に何?男性に好かれても僕、嬉しくないんだけど」

「そういう意味じゃないわよ」

そして苦笑したグレースに更に食ってかかる。

「そうだよ!それに僕よりグレースの方が興味持たれてたじゃないか」
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